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 2008.12.24 UP DATE
銀河朗読団もうひとつの物語が今、始まる。
              「テセウスの右手」


クノッソスの灯

わたしたちが 父を失ったのは いつか
わたしたちが 母を失ったのは いつか

断ち切れない絆は 呪縛として魂を覆い
その子宮は迷宮へ向かう 錨のない奴隷船となる

語り継がなければ 愛は 失われる
語り継がなければ 時は 失われる

戦争 飢餓 温暖化 感染症
放射能 そして 無差別殺人

湧き上がる汚水の その底深くはじまる
きりのない負の連鎖 世界は未来に 生け贄を捧げ続けている

怖れに問う言葉を積み上げ 赦しを乞う言葉を並べ
生命の醜さを解き放つか それとも生命の美を捕えるか

語り継がなければ 愛は 失われる
語り継がなければ 時は 失われる

神々の黄昏に クノッソスの灯は
いまも揺らめいている 永遠に揺らめいている


テセウスの右手〜Theseus Right Hand

深い闇から聴こえる 歪んだ鼓動と乾いた息
出口を標す糸が 血のように蠢く

ひとり またひとりと 生け贄は消えてゆく
ここがどこであるかを おまえが知るまで

ミノタウロスがいる場所を ほんとうに知っているか
討つべき者は誰かを ほんとうに知っているか

ラビュリントスは 現実の別の名
怪物はもしかしたら 幸福を纏っている

ならば その手はなにをする手か?

醜さゆえの恐怖 美に潜む狂気
どちらが おまえを震えさせる

獣の半身よりも 聖人の面に
心は 惑わされる

喰らう肉の重さは 流す血の量を超えられない
天秤に乗せた魂は 一方の空に勝るか

ならば その手はなにをする手か?
ならば その手はなにをする手か?

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 2009.01.15 UP DATE
「テセウスの右手」PART.2

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分身

僕には空を飛ぶ翼がない
僕には海を泳ぐ鰭もない
そして僕には  君の目に映る僕が見えない

僕には羅針盤のような触角がない
僕には餌を嗅ぎ分ける嗅覚がない
そして僕は   君のそばにいる僕を感じない

銃声を聴く   鼓動を聴くように
悲鳴を聴く   歓声を聴くように

飢えも争いも   君の世界では
永遠に終わらない  すべては失われていく

僕が悲しみと名付けた感情を
君はなんと呼ぶのだろう
僕が孤独と名付けた痛みを
君はなんと呼ぶのだろう

僕はなにをまちがってきましたか
なにも考えず吐いた息が 氷を溶かして
生きるためといいながら
命は命を奪い続ける

神が人を創ったのではない
人が神を創りあげたのではないか

こうして僕の鼓動が  許されているのは
自分の知ることのない   死が どこかに在るから

なのに  君の手を
握りしめて   泣くことも
僕には  できない

僕には   できない


Innocent Blood

僕は汚されない  どんな手にも汚されない
たとえ希望を  奪われたとしても

私は捕まらない  どんな目にも捕まらない
たとえ孤独を  手懐けられようとしても

僕は騙されない  どんな声にも騙されない
たとえ幸福と   同じ響きであったとしても

私は背を向けない  どんな闇にも背を向けない
たとえ光が   遠のいてゆくとしても

命の誘惑が 底なしの暗闇へ引き摺りこもうとする
生きたいと願う気持ちを 断ち切ろうとする冷たい現実

僕は裏切らない  どんな自分も裏切らない
たとえ恐怖が  脅かそうとしても

私は傷つかない   どんな剣にも傷つかない
たとえ心臓を   貫かれたとしても

僕はひれ伏さない   どんな力にもひれ伏さない
たとえ断崖に   追いつめられたとしても

私は殺されない  どんな神にも殺されない
たとえ無力を  言い渡されたとしても

命の誘惑が 底なしの暗闇へ引き摺りこもうとする
生きたいと願う気持ちを 断ち切ろうとする冷たい現実

さぁ 前に進もう そこが迷宮の闇であっても
僕たちは決して 生け贄にはならない

さぁ 前に進もう そこが出口のない闇であっても
大人たちが作った時代の 貢ぎ物にはならない

さぁ 前に進もう そこが迷宮の闇であっても
さぁ 前に進もう そこが出口のない闇であっても




流れる風  
流れる雲
流れる空  
流れる鳥

流れる泥  
流れる時
流れる夢
流れる血

あなたが水を与えてしまった
わたしに水を与えてしまった
あふれる水を与えてしまった
゚ソれない水を与えてしまった

流れる過去
流れる未来
流れる人
流れる心

流れる嘘
流れることば
流れる光
流れる闇

あなたが水を与えてしまった
わたしに水を与えてしまった
逃れる水を与えてしまった
逆らう水を与えてしまった

流れる星
流れる月
流れる舟
流れる花

流れる命
流れる永遠
流れる希望
流れる運命

あなたが水を与えてしまった
わたしに水を与えてしまった
あふれる水を与えてしまった
゚ソれない水を与えてしまった

あなたが水を与えてしまった
わたしに水を与えてしまった
逃れる水を与えてしまった
逆らう水を与えてしまった

流れる私
流れる私



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 2009.01.24 UP DATE
「テセウスの右手」PART.3

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迷宮の儀式

おまえは誰だ     
私はおまえだ
ならおまえは誰なのだ
おまえは私なのだ

問う言葉に問われ
振るう刃に傷つき
影のように在る声に
心は追いつめられる

命という幻想の中で
ただ息をしているだけではないのか
どこかで屈折してしまっても光は
真っすぐに伸びていると信じ込む

自分という残像の中で
ただ他者ではないだけではないのか
たとえば重力に引きつけられていても
誰もがそれを堕ちていると思い込む

おまえは誰だ
私はおまえだ

ならおまえは誰なのだ
おまえは私なのだ

吐く嘘に埋もれ
善を背く善に従い
知らぬまに伸びる蔦のように
世界は悪意に覆われる

愛という偽装を企み
ただ欲望を許しているのではないか
どこかで犠牲を生むことになっても
多数は常に優先され続けていく

希望という戯言を並べ
ただ未完の詩を続けているではないのか
たとえば時に腐った時代にあって
異端も神のようにタクトを振るう

それが狂気と変わるまで


花葬

雄牛は どこにいる
私を 満たす雄牛は

果実は どこにある
私を 潤す果実は

ただひとときであるとして
未だ得たことのない
快楽と引き換えならば
ただの牝になるのも
きっと悪くない

そして
それが
たとえ
悲劇であろうと
妊ることを
私は
赦す

母になろうと決めても
女までは捨てられまい
命をもたらす子宮は
死をも育む

誰もが
千切れない
臍の緒を
くわえたまま
生まれるのだ

誰もが
羊水の渦に
もがきながら
運命に
溺れるのだ

雄牛は どこにいる
私を 満たす雄牛は

雄牛は どこにいる
私を 満たす雄牛は



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 2009.02.14 UP DATE
「テセウスの右手」最終章


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砂のパラドックス

父さん 僕はこう思うんですよ

砂山から
数粒の砂を取り去っても
砂山はまだ砂山ですよね
でも
そうやって砂粒を
少しずつ取り去っていき
最後に一粒だけ
砂が残った状態でも
砂山と言えるでしょうか

家族も そうではないですか

このパラドックスの解決法わかりますか

砂が何粒集まっても
砂山にはならないとするんです
「砂山」という言葉は
検証可能な明確な条件を備えていないから
無意味だとしてしまうんです

家族も そうではないですか

家族という言葉も
検証可能な明確な条件を
備えていないように思えるんです
だから無意味だと思いませんか

僕はそう思うんですよ  父さん


夢想回廊

どれだけ   眠っていたのだろう
気がつくと  鳥のさえずり

空はどこまでも青く
木々には緑があふれ
死の匂いはどこにもない

壁に掛かった 水の鏡
僕の顔はほんものか
もう誰も殺したくない
もうなにも奪いたくない

ここは何処なのだ   ここはいったい何処なのだ
柔らかい毛布は    すべての憎しみを包み込む
鍵のない扉の向こうで 母の声が聴こえている

雄牛の汚れた蹄の重さ
あれは悪夢であったのか
それともこれが幻想なのか
小さな種が弾けて飛んだ
いつか花は咲くというのか

ここは何処なのだ   ここはいったい何処なのだ
あたたかい陽射しは  すべての悲しみを包み込む
時のない扉の向こうで 父が僕を呼んでいる

ここは何処なのだ   ここはいったい何処なのだ
柔らかい毛布は    すべての憎しみを包み込む

ここは何処なのだ   ここはいったい何処なのだ
鍵のない扉の向こうで 母の声が聴こえている

ここは何処なのだ   ここはいったい何処なのだ


Agape machine

口を閉ざして なにを喰らう
目を背けて なにを聴き分ける
耳を塞いで なにを見つめる
魂はどこにあるのか

すべてが満たされる現実
そんなものはありえない
すべてが救われる世界
そんなものはありえない

すべてを償える歴史
そんなものはありえない
すべてを赦される未来
そんなものはありえない

いまこの足の裏のどこかで
銃弾に倒れる兵士がいる
いまこの手の届かないどこかに
飢えて腐った子供がいる

闇を生むことのない光
そんなものはありえない
犠牲を生むことのない平和
そんなものはありえない

誰もが等しく与えられる幸福
そんなものはありえない
誰もがすがることのできる信仰
そんなものはありえない

たとえ原因を知っていても
きっと誰にも解決できない
たとえ理想がわかっていても
きっと誰にも方法がわからない

ほんとうに戦うべき者は
それは自分の中にいる
ほんとうに抱きしめるべき者も
それは自分の中にいる

ほんとうに罵るべき者は
それは自分の中にいる
ほんとうに慈しむべき者も
それは自分の中にいる




 
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銀河朗読団
2008年。松井五郎によって結成された朗読集団。「UNKNOWN」のCDデビューをきっかけに都内各地のライブハウスを巡回。
今回は、フォトコラージュとのコラボレーション「テセウスの右手」をArt-LIFE galleryのために制作。作品と音源はアーティスト館〜松井五郎ギャラリーでご覧ください。

松井五郎
57年生まれ。81年チャゲ&飛鳥2ndAL「熱風」で作詞家としてのキャリアをスター ト。安全地帯、吉川晃司、HOUND DOG、氷室京介、矢沢永吉、工藤静香、田原俊彦、中山美穂、 MAX、V6、柴咲コウ、鈴木雅之、平原綾香、パク・ヨンハ、Tackey&Tsubasa、etc発表作品2000曲以上。



 
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